2013年12月5日木曜日

心の中で詫びるようにつぶやいてほしいのです

僕の父が伊丹十三さんの映画が大好きでした。
幼少のおり、同級生達がドラえもん等の
映画に連れて行ってもらってるなか
映画館にはなかなか連れて行ってもらえませんでしたが
当時、出始めのレンタルビデオで借りてきては
容赦なく伊丹さんの映画を観せられたものです。
マルサの女、マルサの女2はもちろんですが
なかでも一番、印象に残ってるのは「タンポポ」です。



ラーメン屋を立て直す本筋に更に散りばめられた
サイドストーリーが眩しいほど輝いているように僕は思います。

空気の読めないリーマンと仏語を読めない重役
マナー教室をやってる横で音をたてながらパスタをすする外国人
今際の際の妻にチャーハンを作らせる男

子供ながらに笑ったり悲しんだりして観たものです。
そして白服の男
死に際に話す腸詰めは本当に美味そうでした。
それに対比されるように最後は生き物として
最初の食事である授乳シーンがあったり。
映画を思い出しただけで、オムライスや北京ダックとか
劇中食を食べたくなってしまいます。


本筋では冒頭のラーメンの食べ方が馬鹿馬鹿しくて最高
これのせいで、ラーメンを食べに行くとチャーシューを右上方に安置し
チャーシューを見つめながらシナチクを食べる様になっていました。

書き起こすと、より馬鹿馬鹿しさが際だちます。
僕:「先生、最初は、スープからでしょうか、それとも麺からでしょうか?」
老人:「最初はまず、ラーメンをよく見ます」
僕:「は、はい」
老人:「どんぶりの全容を、ラーメンの湯気を吸い込みながら
    じみじみ鑑賞してください。
    スープの表面にキラキラと浮かぶ無数の油の玉
    油に濡れて光るシナチク
    早くも黒々と湿り始めた海苔
    浮きつ沈みつしている輪切りのネギたち
    そして何よりもこれらの具の主役でありながら
    ひっそりとひかえめにその身を沈めている三枚の焼き豚」
老人:「ではまず箸の先でですね、ラーメンの表面をならすというか
              なでるというかそういう動作をしてください」
僕:「これはどういう意味でしょうか?」
老人:「ラーメンに対する愛情の表現です」
僕:「ははぁー」
老人:「次に、箸の先を焼き豚のほうに向けてください」
僕:「ははぁーいきなり焼き豚から食べるわけですか?」
老人:「いやいや、この段階では触るだけです
   箸の先で焼き豚をいとおしむようにつつき、おもむろにつまみあげ
   どんぶり右上方の位置に沈ませ加減に安置するのです
   そして、これが大切なところですが
   この際心の中で詫びるようにつぶやいてほしいのです
   あとでね と」

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老人:「さて、それではいよいよ麺から食べ始めます
   あ このときですね、麺はすすりつつも目はあくまでも
   しっかりと右上方の焼き豚に注いでおいてください
   それも、愛情のこもった視線を」

やがて老人はシナチクを一本口中に投じてしばし味わいそれを飲み込むと
今度は麺をひとくち
そしてその麺がまだ口中にあるうちにまたシナチクを一本口中に投じる
ここではじめて老人はスープをすすった 立て続けに合計三回
それからおもむろに体をおこしフーッとためいきをついた
意を決したかのごとく一枚目の焼き豚をつまみあげ
どんぶりの内壁にトーン、トーンと軽くたたきつけた。

僕:「先生、今の動作の意味は?」
老人:「なに、おつゆを切っただけです」


東海林さだおさんのエッセイをかなり
忠実に映像化したものらしいですがいいですよねー。
茶の湯の始まりもこんなノリから始まったんじゃないかと思うほどです

ここから、ラーメン屋の話しと先の本筋に関係のない話が
交互に紡がれてタンポポのラーメンを汁まで飲み干すシーン。





我慢ならねぇ、今から食ってきます。